薄暗い地下室に、私は足を踏み入れた。
魔術師にとって、命ともいえる「工房」。
そこには魔術に必要な様々な道具が揃えてある。
ベンチブレスに、鉄アレイ、パンチングボールにルームランナー。
あっ、あれ間桐から送られてきたお中元のそうめんだ。
探していたのよねー、なんとなく食べたくなって。
おおーすごい! 伊万里のたこ焼きセットがある。
どっから送ってきたのかな?
・・・・・・倫敦だ。
魔術協会は一体何を考えて、お父さんにこんなもの送ってきたんだろう? へぇ、面白い。こんな仮面もあるんだ。
これって舞踏会にでも付けていくのかな?
それにしては、ちょっとカクカクしていて無骨な感じを受けるし。
・・・・・・。
倉、いえ工房にはこのように様々な物品が置かれていて、とても人には見せられないし、見せてはいけない所。
ちゃんと薬品とか調合する部屋は別に用意してあるから、地下はこんなもんで大丈夫なの。
ええ、魔術師の命とか、そんなの工房の状況に関係ないし。
と、ともかく私は第5次聖杯戦争を勝ち抜くため、満を持してのサーヴァントの召喚に挑むのだ。
気力魔力とも充実していて、儀式を行うに最適な時刻になった。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、
王国に至る三叉路は循環せよ」 工房の床にうっすらと魔法陣が浮かび上がる。
詠唱が進んでいくにしたがって、その光が徐々に強くなった。
「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を
破却する」 体中を駆け巡る魔力の渦に翻弄されそうになりながらも、平常心を保って儀式を続ける。
「――――――――告げる」
儀式の一番重要な部分。
私が求めるのは最強の下僕(サーヴァント)。
それのみを強く念じて意識を集中させる。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るベに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
来た!
十分な手ごたえを感じた。
なんて荒々しい力だろうか。
なんて雄雄しく自信に満ちた心だろうか。
ええ、間違いない! 私は最強のカードを引いたのだ。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天
秤の守り手よ―――!」 床の魔法陣が一際大きく輝いたかと思うとキラキラと魔力の残滓が飛び散って、目の前に最強のサーバントが現れる。
「・・・・・・あれ?」
目の前に現れるはずのサーヴァントが、何処にもいない。
背中を冷たい汗が一筋流れ落ちる。
そういえば、私の呪いとも言えるうっかり属性があるのを忘れていた。
いつもそう。
ここ一番大事なときに、信じられないようなミスを犯すのだ。
でも儀式自体は完璧だった。
どこだ? わたしは何処でミスったの?
床の魔法陣も完璧だし、邪魔になるガラクタは端に積み上げて片付けた。
と、足元に転がっている仮面があった。
そのカクカクとしたフォルムが、不気味に輝いて見えた。
「ま、まさかね。これが失敗の原因?」
仮面が物を言うはずもなく、ただじっと私の顔を見つめていた。
私がしばらく呆けていたら、突然上の階から野獣の如き雄叫びが響いてきた。
「■■■■■■■■■■―!」
「なっ?! 何?」
侵入者?
侵入者なら幾重にも張り巡らされた結界があるはず。
そのどれにも反応なく、屋敷に入り込んだ輩がいる。
「そんな馬鹿な話、あってたまるもんですか!」
サーヴァント召喚失敗に続いて、不審者の侵入。
あまりにタイミングが良すぎた。
既に聖杯戦争に参加しているマスターの攻撃だろうか。
一抹の不安を覚えながらも急いで騒音の元、台所へと急いだ。
「■■■■■■■■■■―!」
台所に到着すると、そこには顔に手を当てて暴れ狂っている巨漢の男が居た。
真っ黒な服に、袖は破れて肩から先がない。
そこから生えている腕は、まるで丸太のように太かった。
その腕が必死になって何かを探すように、辺りを探っている。
多分、当の本人にしたら探しているだけなのだろうが、巨漢男の丸太腕だ。
破壊してまわっているのと大差ない。
刺客にしては私の姿を見ても反応しないので、すぐさまの危険は無さそうだ。
この屋敷を破壊しつくすつもりも、今のところ無さそうだ。
・・・・・・いや、台所は半壊状態だけど。
そのほとばしる叫び声を良く聞くと、どうやらマスクと唸っているようだった。
そして私の手にあるのは、一枚の仮面。
「ま、まさか・・・・・・」
恐る恐るその仮面を男の手の届く範囲に投げ込む。
ひらりとその仮面が、巨漢の足元に落ちた次の瞬間!
ドガシャーーン!!
その仮面に足を取られて、男は盛大にこけた。
ああ、さようなら、私のシステムキッチンたち。
その愛しいキッチンの残骸から、水栓が壊れたせいか水道水が勢い良く迸っている。
なにやら凄い勢いで漂ってくる異臭。
そりゃ、そうか。
あれだけ盛大にキッチン壊したら、ガスも水道も電気も漏れ放題だわね。
危険を察知した私は、一目散に台所から飛び出す。
その一瞬後、完膚なきまでの勢いで台所が爆発した。
もうもうと立ち込める黒煙。
台所のところどころで、爆発のあとの残り火がちろちろと瞬いている。
そして驚いたことに、そんな惨状の中あの巨漢の男が平然として佇んでいた。
「・・・・・・あんた、一体・・・・・・」
「クククククッ! 初めましての挨拶にしては、少々手荒な歓迎だったな、ご主人様」
体に付いた煤を、ぱんぱんと払い落としながら口角を上げて不敵に笑う不審者。
その巨漢の男の第一声に、私は十分すぎるくらいの間を取ってから返答した。
「・・・・・・はぁ?」
「はぁ? とはまた気の抜けた挨拶だな、ご主人よ」
くくくっと分かりやすい悪人笑いをしながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる巨体。
純粋な生存本能が、この男はやばいと告げている。
相手が放出している禍々しい邪気におされて、私は数歩後ろへと下がってしまう。
「まだ分からないのか、ご主人よ! 己が内から伸びるパスが、この俺と繋がっていることすら気付けないとは、なんとも情けな
い魔術師だな」 「ばっ、馬鹿にすんな! そ、それくらい分かっていたわよ。ただ、あんたのその変態チックな格好に驚いていただけよ」
もっともらしい嘘を並べたが実際は男に言われるまで、パスが繋がっていることに気付けなかった。
でもね、言い訳かもしれないけど、突然目の前にメイド服を着た巨漢の変態さんがいたらびっくりするでしょう?
それに、そんな変態と自分がパスで繋がっているなんて、信じたくなんてないでしょう?
だから、私は悪くない!
ええ、断じて私は悪くない!
「フンッ、まあ、いい。それでは気を取り直して最初から行くぞ! 初めましてだ、ご主人様よ。俺の名は、コガラシ! 人呼んで仮
面のメイドガイ! 親切丁寧、安全確実にご主人様を、聖杯戦争の勝者に仕立て上げるのがこの俺の使命! 泣き叫ぼうが、わ めき散らそうが、もう貴様に交替の2文字はない。心してこの俺の奉仕を受けるがいい!」 それが私の聖杯戦争の幕開けだった。
・・・・・・最っ底!!!
嘘予告ですよ?
ええ、嘘予告です。これで一本書きたいなとか、ゼロの○い魔書きたいなと思ったからPart 1 にしたとか、そんな事実はあり
ませんから!! コガラシさんのアイコン見つからなかった(涙)
続きが読みたいという人は押してください。その拍手数によってはあるいは連載開始するかもー?????
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